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2023.04.24

レビュー

図録 ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展

 

2023年現在、オランダのアムステルダム国立美術館で史上最大級のフェルメール回顧展が開催(2月10日~6月4日)されていますね。チケットは開幕から2日で売り切れとなり、読者様の中には悔しい思いをされた方もいらっしゃるかも入れません。今回はそんなフェルメールの傑作が話題になった、過去の国内展の図録をご紹介します。

 

「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」は、2022年2月10日から東京都(東京都美術館)、北海道(北海道立近代美術館)、大阪府(大阪市立美術館)で開催され、2022年11月27日の宮城県(宮城県美術館)で終了した国内4か所で開催の巡回展で、ドレスデン国立古典絵画館所蔵品が一堂に会した大規模展覧会でした。

当店にて販売中の本図録(出版社:産経新聞社、全264ページ、A4ワイド(W200mm、H290mm、D260mm)、重さ:約1.1kg)は、その展覧会期中に会場内の特設ショップ、オンラインショップで販売されたものです。こちらにはフェルメールの他にも同館が所蔵するレンブラント、メツー、ファン・ライスダールなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品も掲載されています。

フェルメールが好きな方にはもちろん、この時代の絵画の特徴である、静寂に満ち、ときにドラマチックな17世紀オランダ絵画の美しさに、どなたでも浸ることのできる1冊となっております。

 

ところで、こちらの展覧会での目玉は、フェルメールの描いた名画「窓辺で手紙を読む女」が所蔵館以外で世界で初めて公開されたことと、修復プロジェクトによって画中画にキューピッドが現れた本当の姿の名画に会えることでした。

「窓辺で手紙を読む女」の本当の姿に出会う

ドレスデン国立古典絵画館以外で公開が世界初となった「窓辺で手紙を読む女」は、フェルメールが風俗画に転向して間もない初期の傑作で、女性が光の差し込む窓辺で手紙を読んでいるという、フェルメールらしい構図で描かれている作品です。

しかし、「窓辺で手紙を読む女」の見どころはそこだけではなかったのです。それは、女性の奥の壁に掛けられた画中画にあります。修復により、その中にキューピッドが描かれていたことが判明したのです。更に仔細にこの画中画に注視すると、愛の神であるキューピッドが嘘や欺瞞を象徴する仮面を踏みつける場面が描かれていることが分かります。これは、誠実な愛の勝利を表すと考えられています。

修復作業で明らかにされたキューピッド

「窓辺で手紙を読む女」は、ドレスデン国立古典絵画館が誇る至宝のひとつです。

この作品の手紙を読んでいる女性の背後の壁に、キューピッドの画中画が隠されていることが判明したのは、1979年にサンフランシスコの展覧会に出品された際に行われたX 線調査のときでした。

当初、この作品の変更(キューピッドを消す)を行ったのは画家本人であるというのが、研究者たちの考えでしたが……。

2017年3月に修復師たちはあることに気付きます。

キューピッドの画中画を上塗りした箇所とそれ以外の箇所で、溶媒への反応が違ったのです。そこで、絵具の微小なサンプルをいくつか採取し、科学調査を行うことになりました。

調査の結果、キューピッドの画中画を上塗りした時点で、この絵画はすでに完成から少なくとも数十年は経っていたということがわかったのです。

つまり、画家本人による上塗りでないということが判明しました。

いつ、だれが、何のために上塗りを行ったのか……。

 

残念ながら明確な答えはわかっていません。

【写真1(左)】修復前の写真。奥の壁に絵自体が掛かっていません。【写真2(右)】修復途中。徐々にキューピッドの姿が現れました。

「窓辺で手紙を読む女」が1742年にドレスデンのコレクションに加わった際、知名度の低かったフェルメールではなく、当時より評価の高かったレンブラントが作者とされていたことがわかっています。

より「レンブラント風」に見せるために画中画が隠された可能性も考えられ、今後の調査・研究によってこれらの謎が解明される日が来るかもしれません。

【写真3】画中画に施された上塗りを除去する様子。修復には実は非常に長い時間がかかっています。その詳細は本図録の「修復プロジェクト」にて!

オランダ黄金時代の画家「フェルメール」

ヨハネス・フェルメール(1632~1675 年)は、写実的な作風で光の表現に長けていた絵画の巨匠です。

彼が描く光の粒子の美しさから、「光の魔術師」という異名がつけられています。

フェルメールは、オランダの港町デルフトで生まれました。

この時代のオランダは経済が発達し黄金時代とも呼ばれています。こうした中で、絵画という芸術が発展した背景があります。

黄金時代の画家は、動的でダイナミックな風景画、風俗画などの分野を発展させ、絵画の世界にオランダ独自の風を吹き込むこととなりました。

【写真4】150点以上の滝や急流のある風景画を描いたヤーコプ・ファン・ライスダールの作品「城山の前の滝」(1665-70年頃)。彼の作品は18世紀、特にドレスデンで人気を博しました。

【写真5】ワルラン・ヴァイヤン作「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」(1658年)。著名な肖像画家であったヴァイヤンが作成しただまし絵の1つ。17世紀フランスとオランダで熱狂的な人気がありました。手紙に書かれた文字を読み解けば当時のオランダの商業的な繁栄を偲ぶこともでき、興味深い作品です。

少数の洗練された作品|フェルメール・ブルー

現存するフェルメールの絵画は、真作か贋作かが疑わしいものも含め37作品のみです。

フェルメールは、ウルトラマリンという特に高価だった青色顔料を好んで使用し、その深みのある青の表現は「フェルメール・ブルー」と呼ばれました。

人物画に高価なウルトラマリンを、聖母ではなく一般の女性にたっぷり使うセンスと、背景を描きこみ過ぎない引き算の美学を持っていました。

そぎ落とすことによって生まれた空白は、作品全体にミステリアスな印象を与えます。

現実的でありながらも質素にならず、エレガンスな印象を受けるのはフェルメールの卓越した技術と計算の賜物といえるでしょう。

 

父親の死が画家の道を歩み始めるきっかけ?

1652 年、20歳のフェルメールは、デルフトの聖ルカ組合の美術商で宿屋兼居酒屋の主人であった父親の没後に、美術商と宿屋を相続しました。

それから1年後、聖ルカ組合で「親方画家」になったことから、美術商であった父親の経歴が影響して画家を志すきっかけとなった可能性があります。

 

長い時間をかけて「光の魔術師」と呼ばれる巨匠へ

フェルメールは初期に、聖書・神話・文学を題材とした絵画を何点か制作しています。それらの作品では大きなカンバスと明暗の強い対比が特徴的です。

カラヴァッジョをはじめとしたイタリアの巨匠に影響された、ユトレヒトの画家たちに刺激を受けていたことが伺えます。

 

そして、1656 年以降、フェルメールは室内画の制作を始めるようになります。日常生活を描いた作品は当時の家の装飾に使用されることが多かったため、賞賛されはじめるのです。

この頃からフェルメールは光の反射を取り入れるために絵の具を厚く重ね、小さな点をその上にのせる技法で、柔らかい光や優しい線を作品に描くようになり自分の作風を確立しました。

その後の数年間で、フェルメールは無名画家から巨匠と呼ばれるまでになり、1662 年には聖ルカ組合の理事に任命されています。

 

フェルメールは数点のトローニー(人物の胸から上を描いた絵画)を描いており、最も有名なトローニーは、「真珠の耳飾りの少女」でしょう。

絵の中の少女は、青いターバンに真珠の耳飾りを付けて、意味ありげな表情をしながら、強い意志を秘めているようにも感じられます。

 

フェルメールの晩年と「デルフトの眺望」

フェルメールが晩年に描いた絵は、より起伏がない筆使いで形式化された画面構成、そして鋭敏な線が特徴的です。

そして、1675 年にヨハネス・フェルメールは、わずか 43歳でこの世を去ることになります。

その死因ははっきりしておらず、この世を去る約 10年前に洗礼を受けた新教会を「デルフトの眺望」に描きました。

この絵にはフェルメールの永眠の地である旧教会も描かれています。

彼の創作活動と人生が融合していた街並みが描かれたこの作品は、フェルメールというひとりの人間を最も近い距離で感じることができるかもしれません。

 

オランダ黄金時代に活躍した画家たち

〇レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レイン

1606年オランダ生まれの画家で、バロック期を代表する重要人物の一人として知られています。

精巧な質感描写によるリアリズムと、バロック的かつドラマチックな画風が特徴的です。

また、生涯にわたり70点以上の自画像を描いた画家としても知られており、特に晩年の作品は人間の深い内面を感じさせるもので、現在もなお多くの人を魅了し続けています。

【写真6】レンブラント作「若きサスキアの肖像」(1633年)。サスキアはこの年に結婚したレンブラントの妻です。

〇ハブリエル・メツー

フランドル出身の画家ジャック・メツーの息子で、1629年オランダ生まれの画家です。

後にレンブラントの弟子であるヘラルト・ドウの弟子になります。

メツーは、世界的にレンブラントほど知られていませんが、古典的な技法を継承しつつ精密な作品を残した画家です。

【写真7】ハブリエル・メツー作「鳥売りの女」(1662年)。

 

ドレスデン国立古典絵画館

ツヴィンガー宮殿内のドレスデン国立古典絵画館は、ドレスデン市内にある12のギャラリーや博物館によって構成されているドレスデン美術館のひとつで、ヨーロッパでもトップクラスのコレクションを誇っています。

フリードリヒ・アウグスト1世の治世に、ダニエル・ペッペルマンによって設計されたツヴィンガー宮殿は、ドイツの後期バロック建築の代表作としても知られており、ドレスデン市のシンボルとなっています。

 

美しも躍動的な17世紀オランダ絵画たち。

柔らかい光を操るフェルメール。

あなたの情感を刺激する絵画に触れると、新たな自分に出会えるかもしれません。この機会に興味のある方は手にしてみてはいかがでしょうか。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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