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2024.07.15

レビュー

図録 語り継ぐココロとコトバ 大古事記展 五感で味わう、愛と創造の物語

 

 

イザナギとイザナミ、アマテラスやスサノオ、オオクニヌシ、ヤマトタケル…

みなさんも日本の神話に登場する人物の名を

1度は聞いたことはあるのではないでしょうか。

 

日本には「八百万の神」という言葉があるように、たくさんの神様がいます。

そんな神様の面白エピソードや古代日本のロマンが詰まった書物が、

あわせて「記紀」と呼ばれる『古事記』と『日本書紀』です。

 

その堅苦しい印象とは裏腹に、読めば意外なおもしろさが詰まっています。

私たちの身近にあふれる漫画やゲーム、小説などにも、

よく日本神話をモチーフにした作品がたくさんありますよね。

 

今回の記事は、日本のはじまりが書かれた「記紀」の片割れ、

『古事記』の基本をQ&A方式で紹介していきます。

 

 


そもそも『古事記』って何?

『古事記』は和銅5年(712)に完成した現存する日本最古の書物です。今から1300年以上も前、藤原京から平城京に都が移って2年後のことです。

「こじき」と読むことが一般的ですが、昔ながらの読み方をすると「ふることぶみ」とも読みます。“いにしえの出来事をまとめた書物”という割とそのまんまの意味ですね。

 

古事記には天地の始まりから、神々の誕生、日本の島々の誕生、神々による日本の国づくり、そして天皇の御代の始まり、古代の天皇から推古天皇の御代までのさまざまなエピソードが、上・中・下の3巻にまとめられています。中には、大国主神が傷ついたウサギを助ける「因幡のしろうさぎ」やスサノオノミコトが八つの頭の怪物を倒す「ヤマタノオロチ」など昔話をして語り継がれているものもたくさんあります。

 


書いたのは誰?

古事記の上巻のはじめには序文が添えられています。序文は『古事記』の編纂目的と成立事情を知り得る唯一の資料です。

この序文によれば『古事記』の編纂は、飛鳥に都があったころ(7世紀後半)、天武天皇の発案で始まりました。天武天皇は皇位継承をめぐる一大騒乱「壬申の乱」に勝ち、新たな国づくりを目指す中で、国の成り立ちを説明する必要があったと考えられています。

 

まず、豪族などから天皇家の系譜を記した『帝紀(すめろきのふみ)』や朝廷の伝承等を記した『旧辞(ふること)』という書物を集めました。しかし、これらには間違っている部分が少なくなかったため、改めてまとめなおすことにしました。世紀の大プロジェクト『古事記』編纂事業のスタートです。

そのとき天皇が指名したのが朝廷の下級役人のなかに稗田阿礼(ひえだのあれ)です。当時28歳、記憶力はずば抜けており、一度聞いたことは忘れることがなかったそうです。アクセントも一度聞けば忘れないため、天武天皇は阿礼に命じて天皇家の物語や系譜、さまざまな伝承を暗記させました。それをそのまま文字で記したものが『古事記』になります。しかし、天武天皇の死により、『古事記』編纂事業は未完成のまま一度中断してしまいました。

ところが30年の時を経て中断されていた『古事記』編纂事業が再び動き出しました。元明天皇(在位707-715年、天武天皇の息子の妻)が前代の事業を引き継いだんです。和銅4年(711)9月に、稗田阿礼の語った物語を太安万侶(おおのやすまろ)に整理・記録させ、翌年の1月に『古事記』が完成しました。

こうして『古事記』は、天武天皇が始めた事業を元明天皇が受け継ぎ音頭をとることによって、稗田阿礼という記憶の天才と太安万侶という記述の天才によって完成しました。

この4人のうち誰かひとりでも欠けていたら、今私たちはこの書物を読むことは出来なかったでしょう。

 


『古事記』はどんな言葉を使ってるの?

『古事記』に使われているのは古代日本人が話していた「やまとことば」に漢字を当てはめて記されています。

日本の書物なんだから日本語で書くのは当たり前、と思いましたか?しかし、私たちが今使っているひらがな・カタカナは、『古事記』が編纂された奈良時代にはまだありませんでした。というよりそもそも日本語には文字がなく、文章を書くときには中国の漢字を借りて漢文で書いていました。

 

『古事記』は、稗田阿礼が語り継がれてきたことをうたい、太安万侶が文字にまとめていきました。しかし、阿礼が語る漢字の無い時代の古い言葉「やまとことば」のニュアンスを変えずに、文法も言葉も違う外国の言葉で表現することはとても難しいことです。

そこで安万侶は「訓」と「音」を混ぜて古事記を記述しました。「訓」というのは漢字が持っている意味と同じ日本語を当てはめて読む方法で、「音」というのは漢字の発音だけを利用して日本語の音を表す方法です。できるだけ日本語の語順で読めるようにもしていて、独自に工夫した様子がうかがえます。

こうして完成した『古事記』には4万6427字の漢字が使われています。しかも本来の漢文とは違う日本語の響きを残した書き方になっています。安万侶は日本語の確立に貢献したひとりと言っても過言ではないのではないでしょうか。

しかも、これをたった4か月で完成させたとなると、その有能っぷりがひしひしと感じられますね…

 


『日本書紀』とどうちがうの?

『古事記』と同じ奈良時代の養老4年(720)にできた『日本書紀』。どちらも天武天皇が発案して作成された歴史書ですが、異なる点があります。

『古事記』は漢字の音・訓を使い分け、和文で表現しようとしていますが、『日本書紀』は当時の漢文で書かれています。これは『古事記』は日本人向け、『日本書紀』は外国人に読んでもらうことを目的としているからと言われています。

また、『日本書紀』は出来事が起きた年代順に記載され、『古事記』には年代は記載されていません。また、神々の世界から各天皇の時代の出来事を描く点では『日本書紀』と変わらないのですが、『古事記』では登場する神々や人々がより個性豊かに描かれ、それぞれの物語がドラマチックに描かれています。

 

例えば出雲神話の大国主神(おおくにぬしのかみ)のサクセスストーリーを見てみると、『日本書紀』では大部分が省略されていますが、『古事記』では「因幡のしろうさぎ」などの英雄らしいエピソードが豊富に盛り込まれています。

 


何が書かれているの?

この日本最古の書物には、神々が生まれて世界を作っていく物語、歴代天皇が世を治めるなかでおきる出来事や伝説が記されています。

構成は上つ巻・中つ巻・下つ巻の全3巻です。各巻の内容をまとめるとこんな感じです。

上つ巻 日本誕生と神々の物語

編者である太安万侶の序文と日本の始まりの神話から、イザナキやイザナミ、アマテラスなど、どこかで聞いたことがあるような神々のエピソード。国土の誕生や天の国から最高神の孫が地上に降りて、生活を始めるまでが書かれています。

 

 

中つ巻 英雄たちの伝説

初代天皇である神武天皇が、日向(九州)から大和(奈良)に東征をして、日本を治めた神話。そして各天皇のエピソードの中で、徐々に勢力を拡大していく様子が伺えます。第15代応神天皇までの物語が収録されています。

 

下つ巻 愛と皇位をめぐる人間ドラマ

ここまでくると、だいぶ歴史感が強まります。聖帝と呼ばれた仁徳天皇の恋物語や、大悪天皇と呼ばれた雄略天皇のやんちゃすぎるお話…第33代天皇の推古天皇までの一族代々の系譜や物語などが記されています。

『古事記』は古代日本を知るための重要な手がかりであるのと同時に、いろいろな神様や人物の伝記が物語風に収録されているので、読み物としての親しみやすさがあるのも大きな特徴です。

天の最高神が引きこもったり、国づくりの神がプレイボーイだったり、日本統一のヒーローがサイコパスな上に女装したり….自由奔放な生き生きとした神々の神話やまるでロールプレイングゲームさながらの建国神話、古代皇族の切ない恋物語など、「ラノベですか?」と突っ込んでしまいたくなるような面白おかしい話がたくさん書かれていますよ。

 

 


まとめ

『古事記』は1300年以上も前に書かれた書籍ですので、現存するのは写本のみで原本は既に残っていません。しかし、いつの時代も、その時代を生きる人々にさまざまなインスピレーションを与えながら語り継がれてきました。

 

当店で取り扱っている図録『語り継ぐココロとコトバ 大古事記展 五感で味わう、愛と創造の物語』は2014年に奈良県立美術館で開かれた展覧会の図録です。古事記を編纂したとされる太安万侶に始まり、登場する神々の紹介から、江戸時代後半に起きた古事記ブームの詳細など、その内容に踏み込むと同時に、古事記自体の変遷にも注目しています。

さらに、『古事記』を題材にした絵画はもちろん、古社に伝わる宝物、アーティストによる新作など、バラエティ豊かな資料も収録されており、『古事記』の豊かさを心行くまで味わっていただけるボリューム満点の一冊です。

 

『古事記』の古代ロマンに浸りたい……。でも今までしっかり読んだこともないし、なんだか難しそうという人はぜひこの図録を手に取ってみてください。実はすごくおもしろい『古事記』の世界へ踏み出すきっかけになること間違いなしです!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!