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2022.11.10

レビュー

【金融】A History of the Federal Reserve: 1913-1951

当店では洋書も多く取り扱っております。

今回は、そんな洋書、しかもまだ邦訳が発売されていない金融、経済関連の大作をご紹介いたします。

それがこちら

「A History of the Federal Reserve: 1913-1951」(2003年、Allan Meltzer 著、University of Chicago Press)

です。

タイトルのFederal Reserve、通常はこれに System という単語もくっつけて Federal Reserve System(FRS)=連邦準備制度 という名前で日本では報道されることが多いと思います。または、この連邦準備制度の統括機関であるFederal Reserve Board(FRB)=連邦準備制度理事会 の方が耳馴染みのある方もいらっしゃるでしょうか。要はアメリカの中央銀行制度のことです。

最近では現FRBのパウエル議長がインフレ抑制のため0.75ポイントの大幅な利上げをすると発表したり、2022年ノーベル経済学賞に元FRB議長バーナンキ氏が輝いたことなどが大きく報道されました。

私はといえば、タイトルを見た瞬間にはこの機関がどんなものなのかまったくピンとこなかったのですが、表紙の著者名の下に添えられた

with a Forward Alan Greenspan (=アラン・グリーンスパンによるまえがき付き)

でようやく「ああ、あの、あれですね!」(←)となりました。

…語彙力の無さがかなり残念な感じの反応になってしまいましたが、実際に「グリーンスパン、この名前には聞き覚えがあるぞ!」という方は多いのではないでしょうか。そう、彼こそはアメリカのコンサルタントにして経済学者、1987年から2006年の長きにわたり上記FRBの議長を務めた人物です。最初に彼をFRB議長に任命したのがドナルド・レーガン、そこからパパ・ブッシュ、クリントンを経てジョージ・W・ブッシュに至る5期の任期の間にはいくつ市場をひっくり返すほどの荒波がやってきたことでしょう。

本書出版が2003年ですから、この「まえがき」はグリーンスパンがバリバリ現役FRB議長として筆を執ったもの、ということになります。こちら、実は2ページほどしかない短いものなのですが、その長いFRB議長キャリアの円熟期に執筆されたことを思うと重みが違います。

グリーンスパンについては、彼自身も何冊か本を執筆(例:『波乱の時代(上・下)』(2007年、日本経済新聞出版))していますし、彼のFRB議長としてのリーダーシップがアメリカのみならず世界経済に与えた功罪についても、これまた多数の研究者が数え切れないほどの著作の中で分析・評論をしておりますので、どうぞそちらをご参照ください。

 

それでは、いよいよ今回の一冊のお話にうつります。

まず、こちらの本、なんと800ページほどあります。思わず重さを測ってみたら 1.2kgありました(測るな)。重い。

まぁ、それは発足から90年の歴史を持ち(出版当時)、しかも経済大国アメリカの、下手をすると世界の経済まで手のひらで転がす影響力を持つ組織ですから、それくらいのボリュームがあってもおかしくない・・・と、いったところで・・・お気づきでしょうか?

1913年に発足したFRSの長い歴史のうち、本書で取り扱っているのは1951年までに過ぎません…!そうです、本書表紙には「Volume 1:1913-1951」としっかり書いてあるのです。お察しのとおり本書には1952年以降の歴史に触れた続巻「volume 2」があります。しかも、volume 2は Book1 (1951-1969)と Book2(1970-1986) に分かれており、このシリーズは全3冊・計2,150ページを超える超大作なのです!(と、ここで本シリーズではグリーンスパンが議長になった以降のFRS、及びFRBには触れていないことに気づきました。グリーンスパンがまえがきを寄稿したのも、自分への批判がなかったからなのかしら?と勘ぐってしまいますね。)

そういうわけで、本書ではFRS設立の根拠法となるFederal Reserve Act ( 1913年)から、1951年の財務省とFederal Reserveとの協約(Treasury-Federal Reserve Accord。これにより今日ある連邦準備制度の基礎が整えられ、連邦準備制度の政治的独立性を高めたと言われる。)までの38年間の歴史についてまとめられています。

 

こんなに分厚い紙面になったのには理由がありまして、それは著者のアラン・メルツァーのFRS研究にかける熱意にあります。ちなみに、メルツァー自身も著名な経済学者であり、カーネギーメロン大学で教鞭をとり、1986年から2002年にかけては日銀の海外顧問(名誉アドバイザー)にも就任していた専門家中の専門家です。

そのメルツァーが「著者まえがき」でFRSに関する執筆活動の端緒について書いているのですが、それはなんと1963年にまで遡ります。当時、とある連邦議会議員に促され経済学者のカール・ブルンナーとの共著でFRSについての本を出版します。それから時は流れて1994年、University of Chicago Pressより同書再版の依頼を受けるのですが、メルツァーは前作には時間的な制約もあり、満足のいく分析ができていなかったと感じていました。そこで、前作を単に復刻するにとどまらず、1960年代の執筆開始当初は開示されていなかった議事録など諸々の情報から更に詳細な論拠を集め、驚くほど仔細にアメリカ中央銀行システムの形成された経緯と歴史、そして、それが直面した数々の危機(代表的なものとして、1929年の大恐慌、1930年代後半の深刻な不況など)にどうしてFRSが対応しきれなかったのかを分析することにしました。

最初の構想から40年の研究成果が詰め込まれているわけですから、2,000ページを超えるものになってしまったのも、少し納得がいくような気がします。…いや、それにしても本書を少し読んだだけで引用されている資料の多さに驚かされます。ほぼ執念といって良いほどです。これだけの資料を論拠にFRSの歴史を記したものには類書がなく、経済学者、歴史家、政治学者、政治家など「FRSに興味を持つ全ての人に資する」との本書への評価は伊達ではありません。

 

実は、こちらの本が出版された10年後、つまり2013年はFRS設立100周年でした。その記念事業の一貫として「アメリカで最も影響力があるのに、最も理解されていない機関」(本書カバー巻頭折り返しより訳)であるFRSを「もっと一般にも知ってもらおう!」とFRB(Federal Reserve Bank)of St.Louis (FRSを構成する銀行のうちの1つ)が作成したサイトに掲載された連邦準備制度の歴史(英語です)が、もう少し手短にまとめられており分かりやすかったです。ご興味のある方はまずこちらに目を通すと、本書の内容が入ってきやすいかも知れません。

・・・と、言ってもやっぱり長いんですけどね。

 

そういえば、このFRSの長い歴史を説明するにあたり、本書と上記のSt.Louis銀行サイト、また他にも参照した資料において、どのような出来事をターニングポイントとして捉えるのかでチャプターの分け方が各々異なっていたのも面白かったです。

例えば、本書では

第3章は1914年~1922年 (「In the Beginning,1914 to 1922」)

第4章は1923年から1929年 (「New Procedures, New Problems, 1923 to 1929」)

第6章は1933年から1941年(「In the Backseat, 1933 to 1941」)

といった具合に著者が考える、時代を区分する重大な出来事に沿ってチャプター分けを行っています。目次を眺めながら「この年にはFRSにとってどのようなことが起こったのか?」「アメリカの経済史的には何かあったっけ?」と推理するのも結構楽しかったです。

チャプター分けの違いから、それぞれの著者の思想を捉える(アラン・メルツァーの場合はやっぱりマネタリスト的な論を展開しやすいような構成にしているなぁ、とか…)など、深い考察ができれば更に味わいが増しそうな著作です。

スタッフN

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