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2023.01.04

レビュー

図録 スヌーピーミュージアム 特別展「もういちど、はじめましてスヌーピー。」

世界でもっとも有名なビーグル犬

はじめに

アメリカの新聞コミック「PEANUTS(ピーナッツ)」の主人公チャーリー・ブラウン少年が飼っているオスのビーグル犬、スヌーピー。愛くるしい姿とシニカルなユーモアが魅力の、子どもから大人まで、幅広い年齢層から愛されているキャラクターです。

スヌーピーは犬小屋の屋根に寝そべってはもの想いにふけったり、ある時には宇宙飛行士になったり、撃墜王になったり…とさまざまな表情を見せてくれます。

そんな世界的にメジャーなスヌーピーを知らない人はほとんどいないはず。しかし、原作を読破したことのある人は少ないのではないでしょうか?中には「ピーナッツ」がスヌーピーの登場するコミックのタイトルだと知らない人もいるかもしれないですね。(ちなみに恥ずかしながら私は知りませんでした…。)

「ピーナッツ」ってなに?

そもそも「ピーナッツ」は、1950年10月2日にアメリカの新聞7紙で連載スタートした漫画。

作者であるチャールズ・M・シュルツ氏は、幼い頃から「新聞に連載漫画を毎日書く」という夢を持っていました。学校ではお世辞にも優秀とはいえなかったシュルツ氏ですが、絵の才能はピカイチで、高校生の頃には通信教育で絵を学びながら漫画家を目指しました。

第二次世界大戦後、徴兵による軍務を終えたシュルツ氏は故郷のミソネタ州に戻ります。彼はさっそく、高校卒業後から続けていた出版社への漫画投稿を再開しました。

そうして、レタリングの仕事や通信学校の講師などを務めながら、1950年にコミック「ピーナッツ」の連載を開始します。

それから2000年に亡くなるまでの50年間、一度だけとった誕生日休暇(1997年75歳のお誕生日プレゼントとして取った5週間の休暇)をのぞき、休むことなく17,897日分のコミックを書き続けました。

資料収集からセリフの書き込みに至るまで、すべての作業にアシスタントをつけることなく、たったひとりで行っていたというのだからすごいですよね。

名作「ピーナッツ」の原点

そんなチャールズ氏が半世紀にわたり書き続けてきた名作「ピーナッツ」。この作品は実は突如生まれたわけではなく、大きなきっかけとなったエピソードがあります。

ひとつはシュルツ氏が子どものころに飼っていた犬のスパイクとの思い出です。

スパイクは後々スヌーピーのモデルとなった犬です。この犬がとても変わった犬だったようでして。家族の中では人間の言葉を50くらい理解できると言われていたり、コーラを飲んだり、はたまた画鋲を食べちゃうなんてエピソードもあるんです。

スヌーピーのモデルとなったビーグル犬・スパイク。何気なく名前の由来も記載されています。

この時からシュルツ氏の心の中には、普通とは違う“変わった犬”のイメージがありました。この深層心理の中にあった“変わった犬”のイメージが、スヌーピーに人間以上のことをさせるようになったルーツであり、大きなきっかけになっています。

もうひとつが、通信学校の講師を務めていた時の同僚のアドバイス。

「ピーナッツ」誕生前にシュルツ氏が描いていた前日譚「Li’l Folks(リル・フォークス)」。そこにはすでにピーナッツの子どもたちの原型が描かれていました。

1940年代に描かれた「リル・フォークス」の原画。

シュルツ氏が講師として勤めていた画家養成学校のアート・インストラクション・スクールズは、自身も高校生の頃に通信教育で絵を学んだルーツともいえる場であり、同僚からも数多くの刺激を受けたと回顧しています。その同僚のひとりがチャーリー・ブラウンというのも、ファンにとって心躍るポイントですよね。

そうした同僚たちのひとりがある日、彼の投稿作を見てアドバイスをしました。“子どもを題材に漫画を描き始めるといいのではないか”と。

この助言がきっかけとなって生まれた「リル・フォークス」。同作は1947年6月22日から50年1月22日までのおよそ2年間、地元の新聞「セントポール・パイオニア・プレス」紙で週一連載として掲載されました。

ここですでに、チャーリー・ブラウンという丸顔の少年とスヌーピーによく似た犬が登場しています。1コマ漫画であるがゆえに、台詞よりも状況で笑わせる「サイト・ギャグ」の体裁をとっていることが、ピーナッツとのおおきな違いです。

シュルツ氏は並行して、全国紙「サタデー・イブニング・ポスト」に1コマ漫画を投稿し、全15点が掲載されています。さらに投稿し続け、配信会社ユナイテッド・フィーチャー・シンジケートが興味を示し、1950年に「ピーナッツ」は全国7紙にデビューしました。

「サタデー・イブニング・ポスト」に掲載された1コマ漫画(1949年)(右上)

ちなみに、「ピーナッツ」というタイトルはシュルツ氏ではなく漫画の配信会社が考えたもの。「リル・フォークス(ちびっ子たち)」というタイトルは著作権上の問題から変えないといけなかったんですよね。

英語でピーナッツ(peanuts)には「つまらないもの、ちっぽけなもの」という意味があります。シュルツ氏はこのタイトルを『古きよき日のチャーリー・ブラウン(Good Old Charlie Brown)』にしたかったのだそうです。

スヌーピーのもつ“オシャレ感”

ピーナッツは2020年にはコミック生誕70周年を迎えました。現在も75ヵ国、21の言語、2200紙で連載されており、グッズ展開は年間1万点以上。実は本国のアメリカを除くと、世界的にも断トツで人気が高いのが日本なのだとか。

今はキャラクター人気が先行していますが、昔はコミックの人気もしっかりありました。1967年に『PEANUTS』が日本で刊行されて、詩人・谷川俊太郎さんがマンガを翻訳しているのが新鮮ですし、当時日本で出版されていたマンガと比べてすごくオシャレでした。

白黒のシンプルな絵柄は日本人好みですし、今までの日本のキャラクターにはないオシャレさがありました。そのため当時は、コミックもグッズも両方人気があったようです。

今はキャラクターのほうが人気になってしまって、意外とコミックが読まれていません。それでもスヌーピーに惹かれるのは、白黒のシンプルな絵柄からなんとなく感じるオシャレ感にあります。

長い時を経てスヌーピーの容貌も変化していきました。

スヌーピーは、コミックとしては割と大人向け。でもキャラクターとして見たときに、普通のマスコット的なキャラクターとは媚び方が違う気がします。スヌーピーは“私かわいいでしょ?”って、まったく主張してきません。それは、もともとのスヌーピーの性格があってこそなんです。

キャラクターとして可愛くあるために描かれているわけではないから、作られたものとは本質が違う。だからこそ、小さな子どもが喜ぶものから、大人が可愛いと感じるものまで幅広く人気があるのではないでしょうか。

すごくシンプルで大人っぽい。それがキャラクターのみでも人気を維持している秘密だと思います。

誰もが共感できるキャラクターたち

またピーナッツの引き算された余白がある絵は、彼が何を考えているかを想像する余地があります。その感じが心地いいんです。子どもがギャグや夢みごととして楽しめる漫画でありつつ、大人が読めば一層楽しめます。

気の利いたセリフを織り交ぜクスッと笑わせてくれるスヌーピーと、ちょっとさえないけれど心優しき飼い主チャーリー・ブラウン、気むずかしくていじわるなルーシーに、毛布なしでは生きていけない小さな哲学者ライナス……。70を超えるキャラクターは、それぞれの特徴を持ちつつ、チョコチップクッキーやピザ、アイスクリームをこよなく愛する“普通の”子どもたちです。

大人は登場することなく、子どもたちの目線で日常のおかしみとかなしみを映し出し、哲学的要素を持ち合わせたエピソードがピーナッツには描かれています。

ピーナッツが日本に上陸してから50年、日本語への翻訳を担当した、詩人・谷川俊太郎氏はこの作品を「偉大なるマンネリズム」と表現しています。その通り、キャラクターたちはいつもお決まりのパターンを持ち、物語を展開します。時代による変化はありつつ、毎日がいつも通りに進んでいく。それが安心感につながります。そんなマンネリを面白く描けるのもシュルツ氏の才能のひとつなのだとか。

こうした誰もが共感できる魅力的なキャラクターたちによって織りなす「ピーナッツ」には、人生のアドバイスが笑いとともにいっぱい詰まっています。

シュルツ氏の妻、ジーン・シュルツ夫人と日本語訳を手掛けてきた谷川俊太郎氏の対談も掲載

まとめ

現在ノースブックセンターの販売サイトには2016年に刊行された図録スヌーピーミュージアム 特別展「もういちど、はじめましてスヌーピー。」が入荷中。

スヌーピーの誕生秘話にはじまり、50年の連載期間中に外見も内面も大きな変化を遂げていくさまなど、スヌーピーの魅力を80点以上の原画と共に紹介した見どころたっぷりの図録です。

スヌーピー好きにはたまらない一冊です。ぜひお手に取ってお楽しみください。

巻末のイラストアルファベット表。アートディレクション:祖父江慎氏、ブックデザイン:福島よし恵氏 による、意匠が凝らされた作りも本図録の魅力。

 

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